6月15日PV撮影現場にて
「史人くん、ソロカットいきまーす」
新曲〈Kiss me〉のプロモーションビデオ撮影初日。ブルーバックスクリーンに史人くん一人を残してミーツェメンバーが戻ってくる。
「お疲れ様、今回もいいPVになりそうね」
曲のイメージに合わせた、赤と黒の衣装を身につけたメンバーは、アイドルらしくみんなかっこいい。
休憩の合間に見せるラフな表情を堪能できるのも、ひとえにマネージャーであるからこそだ。
「マネージャーさん、準備はできているかな?」
うっすらと浮かんだ汗をタオルで拭いつつ、策士めいた視線で目配せしてくる歩夢くんに、「ばっちりよ」と親指をたてた。
「ちゃんと、用意してあるわ」
今日、6月15日は、史人くんの誕生日だ。ミーツェ結成後、初のメンバー誕生日。
得意のお菓子づくりスキルを最大限発揮させ、巨大誕生日ケーキをこしらえたのだ。
「幹宏、グラスとお皿を並べてくれるかい? マネージャーさん、俺が持ってきたジュース、冷えてる?」
「抜かりないわ」
当然、有希くんに頷き返す。
氷がいっぱいはいったワインクーラー代わりの青いポリバケツを指差せば、「いいね」と誉められた。嬉しい。
ワインボトルに入った白ぶどうのスパークリングジュースは、有希くんらしくおしゃれだ。
「マネージャーさんの作るお菓子、すっごくおいしいもんね。早く史人の撮影おわらないかな」
待ちきれないと、幹宏くんが楽しげにチャッカマンをタクトのかわりに四拍子のリズムを取る。
「お、チェックにはいったみたいだぜ。サプライズの準備は、できてるか?」
叶多くんがいたずらっ子よろしくにやりと笑って、わたし達にクラッカーを配った。叶多くんはひとり大奮発して、バズーカ型のクラッカーを担いでいた。
やりすぎじゃないかとも思ったけど、「やりすぎなほうが楽しいんだよ」と押し切られてしまった。
とはいえ、叶多くんの言葉には一理ある。
お誕生日のお祝いとは別に、びっくりさせようとささやかないたずら心に、みんなそわそわしていた。
「チェック終了〜! ぼくも休憩入りますね」
幕の向こうで声が聞こえる。
近づいてくる足音に、私たちは視線を合わせ、クラッカーの紐に指を引っ掛けた。
『ハッピーバースデイ!』